2012年10月20日

外伝「奪還者」



 「銀河英雄伝説・外伝」の1エピソード。外伝の中でもラインハルトが中佐で巡航艦の艦長という艦隊を率いる前、16歳のエピソード。
 駆逐艦で巡航艦を撃沈した武勲により中佐に昇進したラインハルトは巡航艦ヘーシュリッヒ・エンチェンの艦長に就任したが、キルヒアイスは中尉にとどまったために、副長に就けることができなかった。軍人事に従ってもともとその任にあったワーレン少佐が副長、キルヒアイスは保安主任として艦長を守るために傍らにあるということで、ラインハルトはヨシとした、と冒頭で述べられている。
 ワーレンがラインハルトの幕僚として活躍するのはずっと後、ラインハルトが戴冠した後のことになるので、若き日のワーレンが描かれているのはこの外伝の1エピソードだけではないかと思う。また後の幕僚であるヘルムート・レンネンカンプ大佐がラインハルトの上司として登場。姿は見せないがフェザーンの駐在武官としてミュラー、補給艦の艦長としてアイゼナッハが登場している。
 ワーレンは年少のラインハルトやキルヒアイスに対して全く偏見はなく、軍務に忠実な常識的な軍人として描かれており、その人柄がよく出ていると思う。
 さて、目立った武勲をあげるような出撃もないまま艦長就任から6か月が経った時、レンネンカンプ大佐を通じて、アーベントロート少将よりラインハルト指名で極秘任務の要請がある。ヘルクスハイマー伯爵が軍事機密を奪ってそれを手土産に同盟に亡命するためにフェザーン回廊と通って脱出しようとしているのを阻止せよとのこと。巡航艦一隻で支援なしの任務故に困難を極めることを承知でラインハルトは拝命する。
 作戦の協力者という名目で同行したアーベントロート少将の部下ベンドリング少佐を載せ、訓練航行と偽ってイゼルローン要塞を出航したヘーシュリッヒ・エンチェンが回廊の同盟側出口にさしかかった時、部下を集めて本当の目的を話す。「回廊といえども、蟻一匹這い出る隙もないわけではない」「なければ作ればいい」とラインハルトは敢えて詳しく説明せずに艦を進める。
 最初の見どころは回廊を脱出する際の陽動作戦。敵のパトロール艇を味方の警備艦隊のところへ引き込み、敵の周波数で救難信号を発して敵の目を戦闘空域に集中させている間に回廊を抜けて同盟側へ侵入する。「この艦長、若いがただ者ではない」とワーレンが感心する場面が印象的だ。
 フェザーン駐在武官との通信空域でヘルクスハイマーが既にフェザーンを出航した旨の通信を受けたラインハルトは航跡からその船を割り出し追跡、奇襲攻撃を欠けて護衛艦を撃破、船のコントロールを奪取するも、脱出しようとしたヘルクスハイマーは減圧事故で死亡。唯一令嬢・マルガレータのみの生存を確認する。持ち出された軍事機密は指向性ゼッフル粒子の発生装置の試作品と宮廷闘争にかかわる重大な機密文書。ベンドリング少佐は内容は知らされていないもののこの機密文書を奪還することを密命されていた。しかしアクセスコードがなければ装置の移設も文書の閲覧もできない状態で帰途に着く。
 ゼッフル粒子発生装置を使って追手を振り切りながら、往路でフェザーン駐在武官と連絡を取った空域に達したラインハルトは再度通信を試み、駐在武官から新しい迂回航路情報と本国を通してイゼルローン回廊での補給の手配をとりつける。また、アクセスコードを知っているマルガレータ嬢と取引して私財と船を解放し亡命を認める代わりにアクセスコードを受け取り、ゼッフル粒子発生装置を移設する。
 さて隠されていた宮廷闘争にかかわる秘密文書は王位継承を左右する重要なもので、それが元でヘルクスハイマーの妻は暗殺され、難を逃れた伯爵とマルガレータは亡命を決意したとのこと。この事実を知ったベンドリング少佐はいきなり「艦長、退艦許可をいただきたい」「軍務も放棄する」「マルガレータといっしょに亡命する」と言い出す。それを聞いたワーレンは「銃殺されても文句は言えんぞ」と激怒するのだが、副長を制したラインハルトは「確かにマルガレータ嬢には後見人が必要だ」と断った上で、ワーレンには「ベンドリング少佐は戦闘中行方不明」と公式記録に記するように命じる。この極秘文書の内容を知る者はラインハルト、キルヒアイス、ベンドリング、ワーレンの4人のみ。ラインハルトはワーレンに「一切他言無用、さもなくば命を狙われるぞ」と釘を刺す。
 マルガレータを送り出すラインハルトたち。キルヒアイスはベンドリング少佐を後見人として同行させることをマルガレータ嬢に伝える。マルガレータはベンドリングに「お前は家来か、従者か」と問うとベンドリングは「そうお考えになっていただいて結構です」と返す。マルガレータは「ジークフリードがいっしょに来てくれたらいいのに」と言うと、「私はある方にずっとついて行くと約束しました。この誓いは破れません」「それはこの艦長か」「はい」。この後が二つ目の見どころでしょう。「ミューゼルとやら、そなたにとってジークフリートは家来か、従者か」。ここでラインハルトが答えます「友です、かけがえのない」。これを聞いたマルガレータ嬢は「諦めるとしよう」と返した後、ベンドリングに「これから行く所は身分がないと聞く。そなたも家来でも従者でもなく、友となってくれようぞ」と。これを聞いたラインハルトに安堵の色が見えます。ラインハルトの「友です」よりも、僕はマルガレータ嬢の最後の言葉に感動しますね。
 ヘーリッヒ・エンチェンはフェザーン駐在武官からの新たな航路情報を得てイゼルローン回廊近くまで戻っては来たが、最終目的地がそこである以上、同盟軍も艦隊を展開させて航路封鎖している。そこを指向性ゼッフル粒子を使って突破はしたが最後の主砲斉射でエネルギーを使い果たしたヘーリッヒ・エンチェンは慣性航行で回廊へ突入する。熱感知機雷を放出しつつ進む先に味方の補給艦が姿を見せる。ところがその補給艦は回頭し始める。「見捨てて逃げる気か」と慌てるワーレン。その直後に補給艦から入電し「補給物資を放出するので受け取れ」と言う。補給艦の艦長は“沈黙艦長の異名をとる”アイゼナッハ。ラインハルトは艦と補給物資の慣性移動の時系列データを見て納得する。足の遅い補給艦が補給を終えたヘーリッヒ・エンチェンの足手まといにならない妙策だった。
 帰還したラインハルトは命令を下したアーベントロート少将の許に出頭する。「ごくろうだった。しかし、ベンドリング少佐のことは残念だったな」「そのベンドリング少佐から預かりものがあります。今回の任務の本当の目的のものです」。アーベントロート少将をにらみつけるラインハルトの目の美しいこと。これでラインハルトは大佐に昇進が決まる。
 この「奪還者」で後にラインハルトの幕僚となる人物が三人登場する。ヘーリッヒ・エンチェンの副長であるワーレン少佐、補給艦のアイゼナッハ艦長、そしてフェザーン駐在武官であるナイトハルト・ミュラー中尉。ケスラーやルッツもそうだが、外伝ならではの馴れ初めの物語である。
posted by KAZU at 21:10| Comment(0) | TrackBack(0) | 銀河英雄伝説
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